とくしゅう Vol.11 2002.7

Twinkle Booksが考える
オトナの夏の課題図書


気づけば世の中夏休み。
あそびも、ゴロゴロもいいけど、たまにはちびっこ本片手に、サマーリーディングとしゃれこみませう。シンプルで、力強いことばの飛沫を浴びて、じつは深遠で、広大なその世界に足を踏み入れてみませう。理屈でわりきれない、微熱のようなちびっこ本の後味は、真夏の夜の夢。あるいは大人をほどく、ちいさな鍵。
今回は、トゥインクルブックスが考える、オトナの夏の課題図書をとくしゅうします。



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あるきだした小さな木
テルマ・ボルクマン作/シルビィ・セリグ絵/花輪莞爾訳
偕成社世界のカラー童話 1983年33刷
240*220/カバー
注文番号:J-205

深い深い森の中にはえていたちびっこの木が、パパの木、ママの木とおわかれして、あたらしい居場所をさがしに旅にでるお話です。さまざまな人々に出会いながら、ちびっこの木はオトナになっていきます。独立と、自分で獲得する自由という、いかにもフランスらしいテーマがいっぱいの夢とともに描かれていて、巻末に「赤い風船」のことが言及してあるのですが、やはり、おなじようなおおらかさをもつお話であるなあと思います。
もう1つ、この本、シルヴィ・セリグの絵が色づかいといい、タッチといい、モロ好みです。当時のこの偕成社のシリーズは以前紹介していた「マルチンのはつめい」や、センダック、ベッティーナ、ヘルベルトレンツ、バーニンガム、アーディゾーニ、スロボトキン、ビルピートと、ビジュアルがじゅうじつした本が多いシリーズでした。





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ぼくのおじさん
北杜夫作/和田誠絵
旺文社ジュニア図書館 昭和47年初版
205*155/カバ欠
注文番号:J-206

北杜夫の半自伝的、ダメダメおじさんっぷりが楽しいお話です。わたしもほぼリアルタイムで読んだので、非常に懐かしいです。もともとは、旺文社の「中二時代」(時代にコース…なつかしすぎ)に連載していたものです。
このダメダメおじさん、野球をすればボロまけ、見合いをすればキンチョーし、懸賞に応募すればハズレまくるという、なんとも情けないひとなのですが、けっきょくぼくのお手柄で念願の洋行へ。しかし行った先でも…。和田誠の挿し絵も秀逸で、自分がちびっこ当時は知る由もないのですが、三角ウィスキーの広告が載ってるページがキョーレツに印象に残っていました。アロハを着たあやしいおじさんの姿とかも…。





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リンゴの木の上のおばあさん
ミラ・ローベ作/塩谷太郎訳
学習研究社1981年第34刷
B5変型/カバー
注文番号:J-207

アンディという男の子がいつも登るリンゴの木の上で、スーパーおばあちゃんに会う話です。といっても、このおばあちゃんは、アンディの空想の中のおばあちゃんで、日本のいじわるばあさんも顔負けなくらい、奇想天外、いたずら好きの最高のおばあちゃん。(チェブラーシカのシャパクリャック風味?そういや、風貌も似ている…)2人でいっしょにいろんなところに遊びに行くのですが、一番印象に残ってるのが、食べ物のこと!(笑)サーカスにいって、綿あめとからし付ソーセージを、えんえんかわりばんこに食べたり、ボタンを押すときいちごのジュースやら、チョコレートボンボンなんかがでてくる不思議な車、ジャガイモゆでてトプフェン作ったり、極めつけはすもものケーキ。設定は空想の中でも、アンディとおばあちゃんの様子はとてもリアルでいきいきとしていて、現実の方がモノクロに思えてしまうくらいで…。でももちろん、現実のおばあちゃんの方のフォローもきちんとあって、なんかほんわかする結末。この本、わたしのちびっこ時代のリアル課題図書で、こんなおばあちゃんが欲しくて、当時はくどいほど読み返したので、イラストとか、話のディテールとかぜんぶ覚えています。時計を植えたら、時計の木がはえてくる、ってエピソードを、実際まねして怒られたことも。絶版。




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くまのローラ-LOLA DE BEER
デ・ヨング作/ジョージーン・オーヴァワーター絵/横山和子訳
福音館書店世界傑作童話シリーズ1994年初版
220*160/カバー
注文番号:J-208

オランダはユトレヒト在住、ちびっこ本にひつようなのは、リアリティー、というのが持論のデヨングと、多数のちびっこ番組や本にとってもかわいいイラストを描くオーヴァワーターのコンビの、笑いに、さまざまな愛に、おやつに、ちょっとだけ涙もありのお話。ノールがおたんじょうびにもらったふかふかのくまのオンナノコ、ローラ。なんともマイペースというか、わがままで、くいしんぼうで、すぐ「いやーん」とか、プンプンとおこってしまうローラなのだけど、2人は最高のおともだちです。エピソード別の章立てになっているのですが、どのお話も、くまのローラのペースにみんながふりまわされてて、それがとても愉快です。それでも、生クリームに砂糖にバターにラスクに、オートミールに、チョコレートペースト(ぜんぶ分量がトゥーマッチ!)の、ローラ・スープはちょっといただけないと思うけど…。





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霧のむこうのふしぎな町
柏葉幸子/絵・竹川功三郎
講談社 昭和63年25刷
215*150
注文番号:J-198

はじめてハリーポッターを見たときに、なんか柏葉幸子みたいじゃん…と思ったわたくしです。魔法使いものではないですが…。日本にだって、こういう良質なファンタジーがあるんだよと声を大にして叫びたいキモチ。
夏休み、お父さんのすすめで「霧の谷」をめざして、はじめてのひとり旅をしたリナ。しかし、着いた駅のおまわりさんも、人々も「霧の谷」なんて知りません。とつぜん、もっていた水玉のかさがふわりと飛んで、それを追った先にあったのは、まぎれもない「霧の谷」。森の緑に囲まれたどこの国ともわからない不思議なこの町の気●がい通りは、赤やクリーム色の家、石だたみの道ぞいに、船の道具の店、古本屋、せとものや、おもちゃ屋、おかし屋さん…。リナはきむずかしいピコットばあさんのお屋敷にやっかいになりながら、アルバイトをしたり、船長さんとそのオウムの願いをかなえたり、おもちゃ屋さんをしあわせにしたり、そして、ちょっとだけオトナになります。
最後に佐藤さとるの紹介文が載っています。「これはきみょうなおもしろさをもつファンタジーです。見かけはちょっとハイカラで、どこか洋菓子ににたおしゃれなところがありますが、中身は意外に手づくりの味がします」
この版は絶版。新版がでてますが、気●がい通りの表記は変わっていると思います、たぶん。ていうか、間違いなく。現在文庫版、新装版がでてますがやはり表紙のイラストがこれでないと…。





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小さいおばけ
オトフリート・プロイスラー作/大塚勇三訳
学研1979年28刷
菊判
中面少ヤケ、奥付にえんぴつの書き込みあり
注文番号:J-199

「小さい魔女」「ホッツェンプロッツ」でもおなじみプロイスラーの名作です。古いお城に住む小さい夜おばけ(おばけには夜おばけと昼おばけがあるそうです。これもお話のポイント)は親友のミミズクとお話をしたり楽しくくらしてましたが、明るい世界をみたいとお昼にとびだしました。しかし真っ白のおばけは、とんでもない姿になってしまいます…。最後に銀色の月のひかりがおばけを照らします。そして最後のすてきな言葉が忘れられません。これは読んでのお楽しみ。しかし、こんなかわいいおばけだったら、家にもきてほしい…。
2003年ようやく復刊。まってました!





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トムは真夜中の庭で
フィリッパピアス作/高杉一郎訳
岩波書店1979年10刷
菊判
函有
注文番号:J-200

こ、これは…。ちびっこ本超名作、最強ファンタジーです。たぶんちびっこ本に関わることになった人なら必ず読まれることと思います。そして、「なぜちびっこ本なのか」という問いを考えるとき、おそらくすべての人がヒントにしたいと考える本です。あと児童文学の流れを変えたとか…この本についているさまざまな肩書き、そういうことを抜きにしても、すこしでもご自分の中に「ちびっこエキス」を感じる方で、もし未読の方がいらっしゃったら、なんとしても読んでください。たぶん一生、残る本になるはずですので…。こんなこと言ったらアレですが、子供のとき読むより、むしろ大人になってから読んだ方がいいと思うので、未読の方はシアワセです!
おじさんの家で、トムは真夜中に古時計が13回時を打つのを聞きます。それを合図にあらわれた不思議なビクトリア調の庭園で、ちいさな女の子に出会います…。
それを否定しようが、肯定しようが、自分の中にある「ちびっこ」性をまっすぐつきつけられるような、ものすごい熱をもったマジックを見せられ、はじめて読んだときは、1時間くらい涙がとまらなかったです。





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まぼろしの小さい犬
フィリッパピアス作/猪熊葉子訳
岩波書店1989年2刷
函一部ヤケ
菊判
注文番号:J-201

同じくフィリッパピアスの、犬を飼いたくて飼いたくてたまらない男の子のお話です。こちらも夢みがちな男の子が主人公で、理想と現実のギャップ、そしてその現実と折り合いをつけていく姿を描いている、これまた深読みすればするほど、おもしろいお話です。
ロンドンに住むベンは誕生日に犬がもらえずがっかりします。そのかわりにもらったチワワの絵をきっかけに自分のまぼろしの犬を作りだし、それに夢中になりはじめます…。

お話もさることながら、あちこちにでてくるロンドンの様子が、イギリス好きの向きにはなかなかたまらないものがあります。そして、最後に、犬と心通い合うシーンといったら!犬好き必須です。またしても号泣です。





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おばあさん空をとぶ
ピアスさく/まえだみえこやく/やまなかふゆじえ
文研出版1972年初版
225*195
注文番号:J-202

同じくピアスの作品です。わたしのちびっこ時代の課題図書だったのですが、夢のあるお話と、この山中冬児の絵がものすごくかわいくて、かなりしつこく何度も読みかえした記憶があります。
ロンドンで風船を売って暮らすコクルおばあさんはねこのピーターだけがたいせつなたいせつな家族です。ところがある日、たいせつなピーターが家出してしまい、ショックで痩せ細ってしまったおばあさんは、知らない間に、風船といっしょに空に飛ばされてしまいました!
この手書きのタイトルと、色とりどりの風船、ねこのピーターのかわいさは特筆すべき。そしてピアスとしては軽い感じのハッピーエンドが心地良いお話です。





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バクのなみだ
あまんきみこ・作/安井淡・絵
岩崎書店1975年初版
カバー少ヤケ
245*215
注文番号:J-203

「車の色はそらの色」「どんぐりふたつ」でおなじみ、あまんきみこは個人的にも大好きな作家で、なにか何度洗ってもシャツにうすく残るシミのような、ちょっとシュールさのまじった悲しみがつまったお話を書かせたらナンバーワン、と個人的に思ってます。そしていろんな意味で日本的な人だとも。
で、こちらもやさしいバクと、ネコのミュウが主人公のなんともシュールなお話です。ミュウ以外、誰にも知られることなく、人知れずこわい夢を食べてあげるやさしいバクは、最近の浮き世に忘れ去られている「含羞」と申しますか、そういったものを思い出させてくれて、決してハッピーエンドではないのですが、すーっとここちよい涼しさを残してくれるお話だと思います。




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ほしのこのひみつ
アルカディオ・ロバト作/若林ひとみ訳
フレーベル館1999年2刷
カバー
280*215
注文番号:J-204


「そらをとんだくじら」などでもおなじみのアルカディオロバトの絵がとてもとてもきれいで、一面の星空に包まれているようなキモチになる絵本です。
さわやかな夏の夜、ヘレンがいつものようにお母さんにお話を読んでもらっていると、そのお話を聞いたほしのこが空から降りてきます…。
見返しのページも一面の星空。本全体に流れる夜の色と星の輝きがほんとうに美しい絵本です。


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