ウイリアム・スタイグ/せたていじ訳/評論社 |
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わたしの大好きな作家のひとり、ニューヨーク生まれ、60歳から絵本を描きはじめたスタイグの作品です。私は「ほろり系」と言っているのですが、絵本や児童書の中で、何度読んでもほろりときてしまう本が何冊かあります。これはまぎれもなくその1册。まだ見ぬ大海原へ「かじり号」で冒険に飛び出したねずみのエーモス。でもひょんなことから海にほうり出されて通りがかりのくじらに助けてもらいます…。こんなひとつまみの話の中に、冒険のゆめ、うちゅうの中のひとり感、ともだちとの出会い、今生の別れ…これだけの要素がつまっているのです。そしてこの本のいちばんのテーマである、ちいさなちいさなねずみとどでかいくじらのお互いを認めあい、尊重できる関係。相棒でもなく、仲間でもない、やっぱりこれこそが友達って関係なのではないのかなあと思います。トシとってからの2人の出会いと別れがこれまた泣けるのよ。
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谷内こうた絵 蔵富千鶴子文/至光社ブッククラブ国際版絵本 |
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バーバラ・クーニーぶん・え/かけがわやすこやく/ほるぷ出版 |
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クーニー自身が文も書き下ろした作品。私の一番好きな絵本の中の1冊です。彼女の大叔母さんアリスをモデルにしたお話で、小さいときの夢のとおり、世界中いろんな国を訪れ、いろんな場所に住んだアリスは、昔おじいさんとした約束を果たすため、あることをします。そして、年とったアリスは、同じ約束を幼い姪とします。その約束は、昨年83歳で亡くなる最後まで現役であり、多くのすばらしい作品を残してくれたクーニー自身の人生と重なっているような気がします。そして読む人の人生もそこに重ねあわせたくなるような、とても大きなテーマの本です。びしっと直球なお話なのだけど、直球だけに、受けた後じわーんとした感じの読後感がやってくる本です。
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作ジョン・プランク/絵マルタ・コチ/文関根栄一(イワン) 作/絵フルビオテスタ/文神沢利子(ぼくのりす) 学研 |
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イワン イワン イワン りす りす りす |
「イワンと…」は最近「むぎうちヨナス」が復刊したチェコのマルタコチが絵を担当。畑仕事の合間に絵本を描くという兼業農家(?)な人ですが、こどもとかの描写がとてもかわいくて私も大好きな作家です。さて、お話はイワンががっこうから帰るとまっ先にいく屋根裏部屋が舞台。そこには、イワンの大切なともだちの古いソファの「ボヨン」とねずみの「チュータン」がいるのです。ところがある日、家に帰ると屋根裏部屋はからっぽ。おかあさんがごみに捨ててしまったのです。三輪車でごみ捨て場へ急ぐイワン…。ほかの人には分からない自分だけの大切なモノ、そしてそのモノとの別れ。「またこんながらくた拾ってきて…」とお母さんに言われたことがある人なら、たぶんきゅーんとモロ感情移入できるお話です。
もう一つのお話はイタリアヴェローナのフルビオテスタが絵を担当。イソップの挿し絵やみすず書房の「詩人が贈る絵本シリーズ」でも紹介された「アイスクリームの国」などで有名ですが、ヨーロッパの色彩感覚と、中東のモチーフがミックスされた不思議なタッチの人です。お話は野生のりすとの出会いとお別れの話。 |
スーザン・バーレイさく・え/小川仁央やく /評論社 |
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もはやスタンダードといえる作品ですね。アナグマくんのシリーズでおなじみのスーザンバーレイのデビュー作。誰かとの永遠のお別れと、残されたものたちの悲哀の仕事をテーマにした本です。みんなの人気者アナグマくんが「長いトンネルの向こう」にいってしいまいました。みんなはとても悲しがるのだけど、アナグマくんが残してくれたものをひとつひとつ思いだしはじめます。
大切な人を失う…人間なら誰でもいつかは経験することで、もし自分がそうなったらどうなるのかとか、周りの誰かがそうなったらどう声をかけようかとか、いじいじ悩んでしまうものだけど、けっきょくはこのスーザンのようなやさしくぽんと肩をたたくような感じが落ち着くのかもしれません。冷たくもなければ、あつくるしくもない、淡々としたお別れ。そしてその先にある続いていく時間、あらゆる感情が濾過されて、あとはゆるやかに沈殿されていく思い出とのつきあい方を教えてくれる本です。 |
文と絵ロバート・マックロスキー/渡辺茂男訳/福音館書店 |
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マックロスキーのコルデコット受賞の腐朽の名作を。メイン州に暮らし、その自然にインスパイアされてさまざまなすばらしい作品を生み出したマックロスキーの、個人的には最高傑作だと思っています。
春のはじまりから、晩夏まで、こどもたちが遊びにやってきた島で過ごす「すばらしいとき」をできごととともに追っています…とストーリーだけ書くと、なんだというくらい、さらっとしてるのですが、早春の雨あがりのなぎさ、青い水のきらめき、風をきるボート、星あかりの船着き場、夏のあらし、そして夏の終わりと島との別れ…。「波と空をよく見ておくんだよ、海の潮の香りをようくかいでおくんだよ」すばらしい水彩でその姿をとどめた、永遠の夏がここにあります。 |
フィリッパピアス作/高杉一郎訳/岩波書店 |
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ちびっこ本超名作、最強ファンタジーです。たぶんちびっこ本に関わることになった人なら必ず読まれることと思います。そして、「なぜちびっこ本なのか」という問いを考えるとき、おそらくすべての人がヒントにしたいと考える本です。あと児童文学の流れを変えたとか…この本についているさまざまな肩書き、そういうことを抜きにしても、すこしでもご自分の中に「ちびっこエキス」を感じる方で、もし未読の方がいらっしゃったら、なんとしても読んでください。たぶん一生、残る本になるはずですので…。こんなこと言ったらアレですが、子供のとき読むより、むしろ大人になってから読んだ方がいいと思うので、未読の方はシアワセです!
おじさんの家で、トムは真夜中に古時計が13回時を打つのを聞きます。それを合図にあらわれた不思議なビクトリア調の庭園で、ちいさな女の子に出会います…。 それを否定しようが、肯定しようが、自分の中にある「ちびっこ」性をまっすぐつきつけられるような、ものすごい熱をもったマジックを見せられ、はじめて読んだときは、1時間くらい涙がとまらなかったです。 |
シャーロット・ゾロトウ作/ハワード・ノッツ絵/松岡享子訳/偕成社 |
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せんじつのがいこくのほんだなに続いてまたしてもゾロトウの本を出してきました。ゾロトウのお話全体に流れている空気のようなものが好きです。まさに生々流転というかんじ。毎日になんとなく息苦しさを感じるときに、ふと手にとりたくなるような。そんなゾロトウらしいタイトルのこの本は、知りたがりやさんの男の子がお母さんにいろいろ質問します。「風はやんだらどこへいくの」「どうしてひるはおしまいになってしまうの」「きしゃはトンネルにはいったらどこへいくの」…終わりとはじまり、かたちを変えて、つながっていくもの。おかあさんの答えを通して、むしろオトナの私たちに語りかけてくるような気がいたします。
「ふゆねこさん」でおなじみ、ハワードノッツが描くモノクロえんぴつ画の自然の中で深呼吸。そういえばノッツのだいすきなねこさんたちもあちこちに登場してます。探してみても楽しいかも。 |
ミッシャ・ダムヤン作/ジャン・カスティ絵/尾崎賢治訳/ペンキン社 |
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マケドニア生まれでスイスに移住し、作家として活躍したミッシャダムヤンのともだちをテーマにした深い深いお話です。原題には、「An Eskimo Boy Learns That Love Is Stronger Than Hate」(憎しみより愛が強いと学んだ男の子)という副題がついています。アツークはツンドラにすむちいさな男の子。5歳の誕生日におとうさんにそりと茶色の犬をプレゼントされます。犬をタルークとなづけて、毎日ずっといっしょだったアツーク。でもタルークはおとうさんといった狩りの途中におおかみに殺されてしまいます(泣)以来、アツークはおおかみへの憎しみから、はやく大きくなって、おおかみをしとめることを目標にするのでした…。
お話のとちゅうに青いキツネがでてきます。りっぱな狩人になったアツークが近づいても逃げないキツネ。毎日空にのぼってくる星がともだちなので、死ぬことが恐くないのです。成長とともに、いちばんだいじなことを学ぶアツーク。彼もどうやらほんとうのともだちを見つけたようで…。これからおおきくなるちびっこにはもちろんのこと、自分のガラスが曇ったなあと思う人にこそ、読んでほしいお話です。こころあたたまるというより、まさにこころがアツークなる話。(さむ、でもほんとです)版元品切。 ちなみにこの本は最近ヨゼフヴィルコンの絵で再版されているのですが、このお話の場合は、個人的にはカスティの(教会のガラス絵などでも有名な人です)、このこけしのようなタッチのアツークが好きです。大胆なタッチなのに、じつは繊細な色づかいで、凍土の微妙な明暗や、動物たちを美しく鮮度たっぷりに描いています。裏表紙にいるタルークが…た、たまらなくかわいいです(泣) |
ダイヤル・コー・カルサ/あきのしょういちろうやく/童話館 |
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お気に入りの作家の死が自分にもたらすもの、これはもう感覚的には惜別の思いに尽きると思うのですが、その作品に対してはまた新しい光を投げかける時があります。
この透明感あふれる物語は、「ま冬に森の奥でたった独りで暮らしたことがありますか」の言葉ではじまります。雪に閉ざされたたったひとりの生活の中で、エルシーは神様に「どうかかわいいねこをください」とお願いします。願いをきいた神様がくれたもの、それはゆきのねこでした。 あなたが生きているあいだには、このうえなくすばらしい日 たんじょう日さえもかなわないような日が、なん日かあるものです エルシーにとって、ゆきのねことの出会いの日はそんな特別な日でした。ねことの楽しい日々、そしてとつぜんのお別れ。でもねこは違う形でずっとずっとエルシーと一緒なのでした。世にある限り、誰もが課せられている離別の悲しみに対して、「ココロの底に生き続ける」という非常にスタンダードな納得の仕方があります。この物語も大約してしまえばそういうことなのでしょうが、話の手触りとしてはまったく違うものを感じます。詳しく書いてしまうとネタバレなのでやめときますが、エルシーとねこは厳密にいえば「はなればなれ」ではないからです。ほんとに「物理的に」ずっと一緒だったからです。このあたりの書き方がとってもうまい。 この本はカルサの死後、旧友ブライアン・グリソンによって発見され、出版されたものです。幸か不幸か、彼女の死後に発表されたからこそ、この物語が持つ意味が、より深いものになった気がします。カルサがひょっこりやってきて、そしてまた隣に座ってくれたんだ、と。そしてエルシーとねこのように、わたしたちとカルサの新しい物語がはじまるのです。 カルサ作品は世界的にかなり人気があるにもかかわらず、まだざんねんながら3作品しか邦訳されておらず、うち他の2冊は絶版(「ギャンブルの好きなおばあちゃん」「犬がほしいよ」ちなみに「ギャンブル…」は近日こちらで御紹介の予定です)唯一この作品だけは現在も入手可能です。ちなみにカナダNFBによって、シェルドン・コーエン監督でアニメーション化もされています。(NFBの作品紹介(アドホック))日本ではまだまだマイナーですが、ぜひ多くの方に手にとって欲しい作品です。 |
瀬尾七重作/司修絵/講談社 |
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じつに似つかわしいと思って、うま年の年末に、ほんだなのトリをかざってもらった本です。ホキとよばれる大晦日生まれのちいさな女の子と木馬のお話で、個人的にもとても大切にしているお話です。ただあらすじを書いても、この物語を読むとき感じるキラキラした高鳴りみたいなものを伝えるのは難しいと思いますので、この本にちりばめられた、ちびっこゴコロを持つ人なら誰でも目を輝かせてしまいそうなモチーフを…。背中に三日月と星を刺繍した真紅のマント。 ばあやからもらった万華鏡。いじわるな小人のおもちゃ屋。れんがづくりの六角形の家にある図書室、雪だるまや雪の女王、くまのこがくれたひなぎく、まわりどうろうの中のこどもたち、まるたでできたテーブルとふんわりしたパンケーキ、星の精たちと楽しむ空のぶらんこ、水銀燈の丸い光、空色のこいぬと雪人形…。ページの中のひとつひとつの言葉からイメージがこぼれそうにあふれています。
『ホキ』は、おとなしくて無口な女の子。お父さんを亡くして、 いとこの淳の家に引きとられました。大晦日はホキの誕生日に、淳は木馬をプレゼントします。みんなが寝静まった夜、木馬が動きだし、ホキを「ロモーラの広場」へ連れ出します。そこは雪ん子や 雪の女王や妖精たちが、新しい年をむかえるために集まる場所でした。この夜から、ホキは木馬とさまざまな場所に行き、すてきな体験をします。木馬と一心同体とでもいうほどになったホキ。ところがあることで木馬の生い立ちを知ったホキは…。 この本のテーマとなっている「たいせつなものとの別れ」「ただ信じること」、これだけ大きなテーマをしょいこんで、さらにエンタテインメントとして確立できること。これがちびっこ本ならでは、ちびっこ本であるからこその、楽しみであると思います。ただ「かわいい」だけではない、ちびっこ本のだいご味を味わっていただけたらと思います。 しかしこの本、残念ながら絶版です。文庫でも出てたのですがそれも品切です。なんとか復刊できるようお願いしたいものだと思います。 (トップページの画像は本体の表紙です。こちらの画像は函の表紙画像) |